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自分と“真逆の女”に挑戦、
『朱花の月』主演・大島葉子。

(2011.08.31)
© 2011 by Peter Brune

© 2011 by Peter Brune

河瀬直美監督作品『朱花(はねづ)の月』。
今年のカンヌ国際映画祭でコンペ部門正式招待作品として上映され、大喝采を受けました。
悠久の地、奈良の美しい自然を舞台に、
万葉集の和歌からモチーフを得た、一人の女をめぐる男ふたりの物語。
激しさを秘めながらも静謐で、美しくもエロチックな作品です。
失われつつある日本人の原風景を見せつける映像も圧倒的。
さて、その主人公を演じた女優・大島葉子さんとは?

『朱花(はねづ)の月』ストーリー

今なお明かされぬ歴史を秘めた土地、奈良県飛鳥。染色家の加夜子は、編集者の哲也ともに平和な日々を送っていた。しかしある時、ひょっとしたら自分は、哲也が可愛がっている籠の中のカナリアのような存在なのでは? と感じるように。そんな思いが同級生で、自由に生きる木工作家の拓未との愛を引き寄せ、彼の子どもを身籠る。新しい恋の行く先はツバメの巣が象徴する家庭を暗示する。ごく自然にそうなったことを哲也に打ち明ける加夜子。そんな彼女の行動が三人の関係を揺るがしていく。

■大島葉子プロフィール

大島葉子(おおしま・はこ) 女優。大阪府出身。高校時代よりモデルとして活躍。多数のファッション誌やファッションショーに登場。京都造形大学服飾デザイン学科卒業後、ファッションデザイナー、歌手としても活躍。2004年に河瀬直美監督『影‐shadow‐』で主演。世界各国の映画祭などでも注目される。2007年には短編映画『笑ひ教』を監督、山形国際映画祭山形県市長賞受賞。2010年ベルリン国際映画祭批評家連盟賞&NETPAC賞に輝いた瀬々敬久監督作品『へヴンズ ストーリー』や、ブラジル Vicente Amorim 監督『Dirty Hearts』アメリカ Malcolm Clarke監督『World Without War』に出演。2011年カンヌ国際映画祭コンペ部門正式招待作品 河瀬直美監督『朱花の月』で主演、国際的に注目される。TV、CFでも活躍中。趣味、特技は乗馬、中国語、スペイン語、フラダンス、タヒチアンダンス、指の極曲げ。イラストを担当した『新動物占い』(扶桑社)はミリオンセラーを記録した。

カンヌに愛される河瀬直美監督、
独特の手法とは?

ー河瀬直美監督は、『萌の朱雀』(97)でカンヌ国際映画祭デビューをするやいなや、史上最年少で新人監督賞にあたる、カメラドールを受賞。その後、『沙羅双樹』(03)を出品し、07年には『殯(もがり)の森』で、みごとグランプリを受賞。カンヌ映画祭で高く評価される日本を代表する女性監督です。さらには、2009年、カンヌ映画祭での貢献に対しフランス映画監督協会から贈られる『黄金の馬車賞』も獲得した初のアジア人となりました。そして2011年、今年のカンヌ映画祭で、到達点とも思える、『朱花(はねづ)の月』を発表。才能ある作家をいち早く見出し、世界的に羽ばたかせるのが、カンヌ映画祭で、独特のえり好みがあることも事実。そんなカンヌお墨付きの監督の新作に主演というのは、なみなみならぬ大仕事だと思いますが、プレッシャーはなかったですか?
 
 
河瀬監督に「あなたが主演だからね。今度の作品」と言われたのは、監督の『七夜待』(08)の試写会の時。監督とはその前に、『万華鏡』(99)という作品で衣装を担当したことで知り合い、その後は『影-shadow』という作品に主演しました。シナリオ無しで、その場で、即興的に作りあげた25分ものでしたが、海外の映画祭での反応が良く、モデルとは違う、女優という仕事に開眼したという思いがあります。

みんなで一緒に作品を作るという達成感が映画にはあることを教えてくれたのも監督なので、指名されたことは、必然的な気もして、素直にスタートを心待ちにした思いがあります。カンヌ映画祭では、レッドカーペットを登り、女優として世界中の映画人に注目される気分、本当にうれしかったです。

ロケ地、奈良・飛鳥に住んで、
感情、言葉、表情が生まれるのを待つ。

ー河瀬作品の大きな特徴、他の監督との大きな違いは特にどのようなところでしょうか?
 
 
即興的で、“半ドキュメンタリー”が特徴的な作品も多く、自身が生まれ育った奈良を舞台に映画づくりをする監督としても知られています。今回は、私が主人公の女性に成りきるためにも、撮影に入る一ヶ月半くらい前から、舞台となる奈良で暮らすことを強いられました。最初は奈良の河瀬監督の自宅に居候。毎朝5時に起きて一緒にお散歩。昼からは、自分で考えて、映画のベースに流れる、飛鳥時代の万葉集や持統天皇など、図書館に通って勉強。

その後、撮影がスタートするまで、主人公の加夜子が哲也とともに暮らす家に実際に住んで、一人で自炊生活をしました。加夜子が映画の中で暮らす環境や、状況を自分で前もって辿るというように。壁にペンキを塗ったり、カーテンをつけたりも自分でする。このあたりは、まだまだ楽しかったんですが……(笑)

毎日、何をして、何を感じたかを日記に書いて監督に提出しなくてはなりません。それを参考にして台本も仕上がっていくというわけです。恋人役のこみずさんも、私とは別に暮らし、同じ作業をしていくんです。

哲也とは結婚しているわけでもなく、子どももいないんだから、新しい恋人ができたら別れればいいのでしょうが、もし私だったら…と、そういうことを監督と話し合ったりもするんです。

女優が主人公の女性像になるまで
待つのが河瀬監督流。

ーそのうえで即興的に、みんなで創っていったんでしょうか?
 
 
いつも、河瀬監督の作品は、シナリオが出来ていて、それを俳優が読んで演じる、というのとは、まったく違います。演じる人間が役柄に熟成される過程の感情までも、観察するという精密な作り方をしていくんです。

今回は特に、台詞も台本もあったのですが、それをそのままで使うのは監督は好まない。それをふまえて、一度忘れて、その場でしか出ない感情を活かしていきたいんですね。撮影がスタートして、その場で言葉が出なくなってしまうこともありました。それは、主人公の女性像の解釈が、私と河瀬監督では真逆だったから。この場面ではこうだろう、と思って発した言葉が「主人公、加夜子は、そんな風にはしないでしょう。」というような、たびたびの注文がありました。でもこうやって、と正解というかお手本を見せたりはしない。私が彼女に変身するまで、待つんです、監督は。

そして、何事にも、時間をかけるんです。主人公の加夜子は染色家なので染物をするのですが、たった一枚の赤い布を染めて布を乾かすことなども、紅花から染料を作り、染めて、乾かしてと、時間短縮なしで、主人公になりきった私が実際に作って撮影していきます。スタッフが染め上げた布を用意しての撮影なんていうんじゃないんです。

ドキュメンタリーに近い手法も活かしているんですね。その場で生まれたものを切り取って活かす。求められているものは演技だけではなく、その場に、私、大島葉子がいて、大島葉子=加夜子で、そこで出てくる感情、言葉を表情にして出すという演技でした。

だから、撮影中、常に緊張状態にあって、そのプレッシャーで激やせしてしまいました。ロケ現場であった彼女の家の向かいは、運よくお医者さんだったので、だんだん容色が衰えていく私を見て点滴を打ってくれたり、その奥様がお弁当を作ってくれたりしたんですよ(笑)。点滴は延べ5回も打ってしまいました(笑)。お隣のおばさんはパンを焼いてくださったり……で。

結果的には、大変な思いをした甲斐あって、監督と、私が感じる女性像がなかなか一致しなかったものの、完成した作品を客観的に見てみると、私が思う加夜子像も反映された、一人の女性が生まれていました。

観る者の鏡、「女」を呼びさます
『朱花の月』。

ー河瀬監督作品には、今回ならずとも、雨の中での、びしょ濡れの男女のツー・ショットというシーンが印象的で、それが、プリミティブな激しい熱情を感じさせて、とても、とても、エロティックでした。大島さんをはじめ、どの女性の体にも眠っているエロスを引き出した河瀬監督の才能も、さるものですね。また、主人公の加夜子は、哲也と拓未という二人の男性に愛されていい女そのものですが、二人が競うのは、ある意味、料理だったりしましたね。男性二人が懸命に、愛する女性に、おいしそうなご飯を作ってあげるのが印象的でした。まことにもって、幸せな女性なのですが、大島さんにとっては、哲也と拓未どちらがタイプでしょうか?
 
 
どちらでもないです(笑)。強いて言えば哲也でしょうか。誠実で、優しく、辛抱強い。恋人がいると打ち明けても、一層気遣いをしてくれたりするんですから。でも、女って、そういう男性がもの足りなくなったりすることもあるかも(笑)。恋人とは運命的な因縁も孕んでいる設定。それこそ、祖母の代からの恋路、ひいては、飛鳥の時代を引きずっているような関係も明かされて行きます。

美しい奈良・飛鳥の風景と
人間の情感のハーモニー。

ーカンヌ映画祭副代表クリスチャン・ジョーヌさんはこの作品について「自然を広く大きく切り取り表現する事は、わたしたち人間の親密で繊細な感情を描くことに通じている。暴力と優しさの、過去と現在の、そして、もちろん自然と人類の ―自然界に存在する多種多様なもののハーモニー/共存を感じます。」と感想を寄せています。大島さんは実際にカンヌ映画祭に、監督とともに出席されてますが、映画祭での反応はどのようなものでしたか?
 
 
映画祭中ずっと鳥肌が立っていました。賞のことが気になるとか、そうことではなく、実際にレッドカーペットに立って、とてつもなく感動しました。また作品が上映されて、皆で作品を観て見終わった時の、みなさんの反応はどうなのか考えて、もうドキドキしっぱなしでした。終映後は、スタンディングオベーションが5分間続き、うれしさもひとしおでした。

ーズバリ『朱花(はねづ)の月』の観どころはどのようなところでしょう? 
 
 
とても静かな作品です。セリフは多くありませんし、説明的な要素も少ないです。しかしその分、見ている人にとっては想像する余地がある。観る人によっていろいろな解釈ができる映画です。女性なら、いかにこの作品が女性が持つ情念を実に巧みに表現しているかが分かるはずです。実際に濃厚な恋愛シーンなどでわからせるのではなく、森や雨の中でなど、なにげない風景を活かして、美しいエロティシズムを織り成しているんです。飛鳥の神々しいまでに美しい風景そのものが生命力を感じさせてくれますし。河瀬監督の作品は難解である、と思われがちですが、全くそんなことはない、誰もが似たようなシチュエ―ションを経験しているかも知れない。多くの女性に観て欲しいです。


ファッションモデルから
キャリアスタート。

ー太古の昔から男と女がいる限り、普遍的な争いごとは絶えない。だからこそ、女の存在は謎であるというような、そんなメッセージを、奈良という悠久の場になぞらえ、河瀬監督は、入念で静謐な手法で観るものに投げかけているんですね。
そもそもファッションモデルもなさっているとして大島さんが女優として、今回で本格的実績を作られましたが、女優という仕事をしてみてわかったこととは?
 
 
高校生の頃、スカウトされてモデルとしてデビューし、雑誌やCFに出ていました。洋服が好きだったので、美術大学ではファッションデザイナーをめざし服飾デザインを学びました。卒業後は、ファッションデザインの会社に就職、デザイナーをやっていたのですが、どうも違うな、と。せっかくデザインを考えても、「そのステッチにはお金かかりすぎるからナシね。」とか「その素材のボタンは高いから、こっち。」といわれてしまう。そんなのでは私の思うようなデザインはできない、ならモデルでやっていこう、と上京しました。現在所属している事務所が、俳優さんが多くいるところだったので、いくつかの映画作品に出演するチャンスにも恵まれました。

モデルとの違いは、常に、きれいで美しいことを維持して、被写体として努力していくのがモデルのプロ。女優は、大勢の方々と一緒に、モノづくりができることが素敵だなと。1カ月とか長期で、運命共同体みたいな時間を共有しながら、素晴らしい作品が出来あがっていくことがたまらなく好きです。また、表面的な美しさより、内面から滲み出る美しさであったり、女らしさを求められます。それを演じることは、何より嬉しいことですね。年齢的なこともあるかもしれませんが、これからはますます、女優業を磨いていきたいと思います。

短編映画
『笑い教』の監督も。

ー女優の幅を広げるためにも、ご自身でも映画監督になられたそうですが。
 
 
2007年に撮った37分の短編映画『笑ひ教』です。何人かの監督が短編を撮る、という企画があり、それに立候補、山形国際映画祭に応募しました。女優で映画に参加している限り、関われるのは登場シーンだけですが、監督になれば映画制作の全工程に立ち会える。監督の経験はなかったのですが、その経験はきっとこれから大切なものになるだろうという気持ちで望みました。

ストーリーは大阪のおばちゃんたちが笑えば幸せになれる、という宗教サークルみたいなものを作っていて笑うことを推奨している。そこに東京で挫折した青年がやって来ておばちゃんたちに巻き込まれるコメディです。もともと大阪出身で関西人なのでお笑い好き。でも大人になると笑うことが少ない。笑える映画を作ろうと考えたのです。河瀬監督作品とは、これ、“真逆な”作品(笑)。

大賞狙いで自信がありましたが、山形市長賞に留まりラ・フランスをいただきました。

素顔とのギャップが、
すなわち、女優力。

ー大島さんはキャリアのほかも趣味、特技の幅が広く豊富でらっしゃって、スペイン語、中国語、乗馬、ハワイアンダンス、タヒチアンダンス、さらには指の極曲げ……。これもやはり、女優の巾を広げるためでしょうか。お話をうかがっていても非常に明るくて元気はつらつ、躍動する好奇心全開の方であるのがよくわかります。御自身とは“真逆な”映画の中での加夜子への変身ぶりが、大島さんの女優力であり、そこに舌を巻かないわけにはいきません。河瀬監督が見込んだワケもそのへんにあるのではと思いました。また、監督によって、きっと様々な女性像を演じ切ることができるに違いない、とお見受けしますが、将来仕事をしてみたい監督は?
 
 
 
仕事をしたいというわけではないですが、アキ・カウリスマキ監督の作品が大好きです。ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ兄弟監督だと、特に『ロルナの祈り』が好きですね。

ー大島さんのこれからに注目ですね。女優としての、次なる挑戦はどんな感じでしょうか。
 
デビューが遅めですから、大人の色気を持った女優になれたらなぁと思います。シャーロット・ランプリングは尊敬すべき女優ですが、年齢を重ねても独特の色気と存在感のある女優さんなので、ああいう色気って憧れますね。今、キレイなだけではなく、若さだけではなく、色気のある女という存在が失われかけていると思います。往年の女優さんが持っていた、色気を醸しだせるような女優になれたらと思います。将来は国内外問わず、映画を中心に色んな役に挑戦していきたいのですが、私もそろそろ大人(笑)。まずは、そのへんをめざしていきます。


『朱花の月』

出演/大島葉子、こみずとうた、明川哲也、樹木希林、山口美也子ほか
監督/河瀬直美 
配給/組画、配給協力/東風、
2011年/91分/カラー 
© 2011 『朱花の月』製作委員会
2011年9月3日(土)より、渋谷ユーロスペース、TOHOシネマズ橿原、ワーナー・マイカル・シネマズ高の原、9月10日(土)より、シネマサンシャイン大和郡山、順次公開