『Mommy/マミー』 カルチャーシーンのゲームチェンジャー グザヴィエ・ドラン監督。

(2015.05.16)
鮮やかな色彩、考えぬかれた構図、生命感に溢れた人物像、1:1の画面のサイズ、とすべてが新しいグザヴィエ・ドラン作品。『Mommy/マミー』Shayne Laverdière / ©2014 une filiale de Metafilms inc.
鮮やかな色彩、考えぬかれた構図、生命感に溢れた人物像、1:1の画面サイズ、と全てが新しいドラン監督作品。『Mommy/マミー』Shayne Laverdière / ©2014 une filiale de Metafilms inc.
カンヌ国際映画祭最年少審査員
グザヴィエ・ドラン。

ただいまフランスで絶賛開催中のカンヌ国際映画祭。『Mommy/マミー』の監督グザヴィエ・ドランは、審査委員長コーエン兄弟、ソフィー・マルソー、ロッシ・デ・パルマ、らと審査員を務めています。カナダ出身、26歳という史上最年少の若い審査員です。

グザヴィエ・ドランは昨年のカンヌ国際映画祭に『Mommy/マミー』をコンペ出品、ジャン=リュック・ゴダール監督とともに、審査員賞を受賞。「21世紀の新星現る」と話題になりました。

感動的な受賞スピーチを盛り込んだ『Mommy/マミー』予告編。

 
新世代のゲーム・チェンジャー
誕生の瞬間。

私は昨年のカンヌに映画作品バイヤーとして参加しました。ドランのデビュー作『マイ・マザー』、2本目『胸騒ぎの恋人』を手がけていた縁もあり、『Mommy/マミー』は撮影に入る以前、脚本の段階で買い付けていましたので、カンヌでの世界お披露目上映にはドキドキとワクワクで胸がいっぱいになりながら会場入り。ワールドプレミア上映が終わった後に「本物のスタンディング・オベーション」が起こり、ドランがこれまで挑んできたカンヌという砦に、ついに絶賛で受け入れられた瞬間を共有し、私も感動に胸が震えてしまったくらいです(ついでに手も震えてちゃんと写真が撮れませんでした)。

私もずいぶんと長い間カンヌのプレミア上映をメイン会場のパレで見てきましたが、スタンディングの拍手にも種類があって、「監督へのリスペクトでの拍手」、「本当の意味での作品への絶賛の拍手」、「まぁまぁだけど、監督は有名どころだし、制作姿勢は尊敬できる!」みたいなちょっとヨイショ入ってる業界的な拍手など、いろいろなその場の「気」みたいなものが生まれるわけです。みなさんも、演劇や音楽のライブなどライブパフォーマンスの鑑賞を経験された方はお判りになると思います。

 
シングルマザーのダイ(ダイアン・デュプレ)と暮すことになったADHD(注意欠陥、多動性障害)を抱える息子スティーヴ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)、そして隣人のカイラ(スザンヌ・クレマン)。台風の目のようなスティーブを中心に、3人の葛藤を描く『Mommy/マミー』
シングルマザーのダイ(ダイアン・デュプレ)と暮すことになったADHD(注意欠陥、多動性障害)を抱える息子スティーヴ(アントワン=オリヴィエ・ピロン)、そして隣人のカイラ(スザンヌ・クレマン)。台風の目のようなスティーブを中心に、3人の葛藤を描く『Mommy/マミー』

拍手とはそこに集まった人々の一種の「気」の集まりですから、その場にいればそのカラーがどんなものか? は感じることができますよね? そういう意味で、『Mommy/マミー』終了後のオベーションは、本当に嘘偽りなく会場全体が「総立ち(スタンディング)」で、拍手はまさにオベーション(大喝采!)で、とても温かく、監督、演じた俳優たち、関係者すべてへの「よくやった!」「ブラボー!」という強いリスペクトが感じられるものでした。

 
グラン・テアトル・リュミエールにおける授賞式
感動のスピーチ。

グラン・テアトル・リュミエールにおける授賞式では、ドラン監督は、ノミネート候補者が座っているエリアに座っていました。私は、ずっと後方の一般席からです。授賞式で前の方の席 オーケストラシートに座れるのは、オフィシャルセレクションの監督、俳優、プロデューサーなどの関係者のみです。そもそも授賞式のチケットは普通の映画関係者でも、簡単には手に入らないものですから。ようやく入っても、当然、後ろの方(バルコニー)です(笑)

前評判やカンヌ終盤のムードの中でパルムドールでは? という機運が高まっていましたので、これもほんとうにドキドキでしたが『Mommy/マミー』予告編にも使っている審査員賞受賞発表の瞬間は、おそらく20年通っているカンヌ映画祭の中でも最も感動的で、かつ新鮮なモーメントだったと思います。ドランの希望に溢れる受賞スピーチを聞いて、後ろに座っていた審査員長のジェーン・カンピオンがわざわざ壇上へ来てドランとハグをしたシーンは、普段クールに振舞っている世界の映画ビジネスパーソンたちにとっても、エモーショナルな瞬間でしたよ。

ドランは子供の頃から”C’est spécial.” と言われ続け、「特殊なこども」として風変わりな少年時代を過ごしてきた人間であり、先ほど述べたように映画監督としてデビュー後も、偏見や食わず嫌い、毛嫌いなど若くして常に向かい風と闘ってきた監督です。それらの感情にはもちろん嫉妬も含まれていたわけですが、そんな彼が「若いみんなへ」として「誰もに平等に自由があるにも関わらず、君のやろうとすることを邪魔する人も出てくる。けれど、諦めなければ世界は変えられる。僕が今日、こうしてここに立てたのだから」と、そう訴えかけたことが、グッとくるな理由なのです。

偏見や映画業界の英語圏ではない映画へ対する見えないガラスの天井、ジェンダー差別、若いからという理由で評価されない風潮、そんないろんなバックグラウンドを知っている映画関係者たちだからこそ、彼の言葉に余計に重みを感じたのでしょうね。(ちなみにカンヌ映画祭は関係者オンリーの映画祭なので、一般客は招待者以外は会場にはいません。ですから同じフィルム仲間のプロたちから評価されたこともまた、嬉しさにつながるのでしょう)

 
「諦めなければ、世界は変えられる」
ドランのメッセージを受け取って。

私たちは『Mommy/マミー』を日本で配給しています。それは「諦めなければ、世界は変えられる」というドランのメッセージをとくに若い人に伝えたい、と思ったからです。窮屈で先が見えない世の中を悲観して嘆く気持ちに共感しつつ、「切り開く力がみんなにもある」、とドランは世界へ向けて発信したのですから。彼はあるインタビューでこうも答えています。「僕らひとりひとりを形づくるものは、困難やレッテル(偏見)ではなくて、夢や希望のはずなんだ」。私たちは大人としてその心意気に、迷わずベットし、身の丈でできるサポートをすべく、同じ船に乗っただけです。

 
若い感性が鮮烈にスパークするドラン監督作品。新星の才能を見逃さないで。
若い感性が鮮烈にスパークするドラン監督作品。新星の才能を見逃さないで。

ドラン監督の新しさ、これまでの映画監督との違いを表現するのは難しいのですが、例えば、どんな有名俳優でも、「この監督に演出してもらいたい!」「この監督の映画に出てみたい!」と思わせる、という意味では、ウッディ・アレンのようです。また、絵をワンカットみれば「あ、○○監督の映画だな」と判る、という映像のオリジナリティで言えば、ポール・トーマス・アンダーソンのようでもあります。

しかしドランには、圧倒的に今までの名だたる監督たちと違うオリジナリティがあります。それは、徹底的なセルフ・プロデュース力とクリエイターにとどまらないビジネス・センスの高さです。そういうところはまさに今の20代の世界的な特徴だな、と感じます。そんなドランは文字通り「新世代」であり、また建築、絵画、彫刻、音楽、舞踏、文学の次にくる第七芸術としての映画ではなく、それらのカルチャーすべてを包含するエンターテインメント映画をこれからも作っていくだろう、「カルチャーシーンのゲームチェンジャー」だなと思います。

●●● ㈱ピクチャーズデプト 会社概要 ●●●
2010年設立。インターナショナルな視野とスケールで映画作品の買付、配給、宣伝、製作を行う。園子温監督『恋の罪』(11)を世界市場に売り出すことに成功、注目される。主な配給作品は『マイ・マザー』(09)、『胸騒ぎの恋人』(10)、『ショート・ターム』(13)。プロデュース作品は『希望の国』(12)、『サケボム』(13)など。

 
『Mommy/マミー』

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、
YEBISU GARDEN CINEMAほかにて全国順次公開中

監督:グザヴィエ・ドラン
出演:アンヌ・ドルヴァル、スザンヌ・クレマン、アントワン=オリヴィエ・ピロン
配給:ピクチャーズデプト
提供:鈍牛倶楽部、巖本金属
後援:カナダ大使館
特別協力:ケベック州政府在日事務所
2014年 / カナダ / フランス語 / 日本語字幕 / 138分 / DCP / カラー / ドルビーデジタル / 1:1
©2014 une filiale de Metafilms inc.