『バードマン』 愛と憎しみ渦巻く世界に復活したい、 堕ちたスターのファンタジー。

(2015.04.04)
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』© 2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』© 2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved.

本年度アカデミー賞の本命と騒がれ、9部門ノミネート、作品賞他最多4部門受賞の快挙を得た『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』。なにしろ、あのマイケル・キートンの久々の登場です。主演男優賞は確実との声も高く、結果、惜しくも賞は逃しましたが、かつての初代『バットマン』の演技からは想像できない、「人間的」な演技が魅力的でした。キートンは『バードマン』ならぬ、『バットマン』(89)で、テイム・バートン監督とタッグを組み、一躍、世界的に知られるドル箱スターの名をほしいままに。第2弾の『バットマン リターンズ(92)』も大ヒット。しかし、その後の主演はキートンからヴァル・キルマー、ジョージ・クルーニー、クリスチャン・ベールとニューモデルにすげ替えられ、バットマン=キートンの記憶も薄れていきました。

 
ショウビジネスでの起死回生をかけた舞台公演を控えるリーガン(マイケル・キートン)。かつて演じたヒーローバードマンは言う「おまえはできる」
ショウビジネスでの起死回生をかけた舞台公演を控えるリーガン(マイケル・キートン)。かつて演じたヒーローバードマンは言う「おまえはできる」
キートンの実人生とダブる、
かつてのセレブの生き方とは?

いわゆる「スター殺し」、「落ちぶれスターを生み出す」ことは、我々観客の甘味な嗜好です。「飽きられたスター」「忘れられたスター」を探し出す達人たち。しかし、そういう世界でもキートンとバットマン後任の面々を比べると、クルーニー、ベールは、サバイヴァルに成功して確実に大物に。ハリウッドは日々刻々が生き残りゲームのルーレット。

そんなキートンを起用、まるで現在の彼の身の上をリアルに語るかのような演出で、60代落ちぶれスターの起死回生の顛末を映画化したのが、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督。その着想にまずは、舌を巻きます。落ちぶれ、落ちぶれと連呼されたり、パンツ一丁でNYを歩き回るシーンなどあるのに出演オファーを承諾したキートンも、あっぱれですが。アカデミー賞では、監督賞、作品賞、脚本賞、撮影賞の4つを一挙に獲得しました。

キートンが演じるのは、スーパーヒーロー『バードマン』役で大スターになったリーガン。時代の推移と共に、今は出演作もなく、私生活でも離婚で家庭は崩壊。負け犬的存在です。過去の栄光と大衆からの愛をもう一度取り戻そうと、映画より格上の演劇世界での成功、復活を夢見ます。無謀にもレイモンド・カーヴァーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』を舞台向けに脚色、演出・主演で奮闘。エドワード・ノートン演じる、頼みの綱の有名舞台俳優に振り回され、プレビュー興行を目前に興行界に多大な影響力を持つ女性批評家からは潰されそうにも。

この波乱含みで乱高下気味のなりゆきを、全編長まわしのワンカットで撮ったかのような映像に監督はこだわりました。みごと、撮影賞獲得です。観る者は、困惑し苦悩するキートンの顔と姿を、ほぼすべてのカットで見つめることになります。この独白的映像表現に酔いしれることが、この映画を観る者の悦楽でもあります。

 
天才的な舞台俳優マイク(エドワード・ノートン)の出演が決まり、公演の成功はすぐそこにあると思われたが。
天才的な舞台俳優マイク(エドワード・ノートン)の出演が決まり、公演の成功はすぐそこにあると思われたが。
 
SNS時代のヒーローは誰なのかを問う。

テンポの良い音楽や普遍のオペラ曲が効果的に使われた映像は、スタイリッシュで、ファンタジック。キートンが案内する映画・演劇世界の舞台裏を知る誘惑にも身を委ねるべきです。

そして、ウディ・アレン監督の新作『マジック・イン・ムーンライト』で主演を果たし、多くの監督が注目する若手女優、エマ・ストーンがリーガンの娘サム役で登場。薬物依存症を乗り越えたところで、父を支えるマネージャーとなり、父がいかに時代遅れかを諭すこと、しきり。この役が実にはまっていて、ストーンの新鮮で旬な魅力に惹きつけられます。アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたものの受賞には至らなかったのは残念。

 娘のサム(エマ・ストーン)は「パパは忘れられた人よ」とリーガンに対して手厳しい。
娘のサム(エマ・ストーン)は「パパは忘れられた人よ」とリーガンに対して手厳しい。

大スターとなった人間の苦悩と人生。弱ったところを、残酷にも追い打ちをかけ鞭打つ、映画・演劇界。それらを鋭く批判して、愛憎込めた諸刃の剣で、実名のハリウッド・セレブを一刀両断にするセリフもしばしば登場。ブラックな笑いが醸し出されます。その大胆さは、メキシコを代表する映画作家としての、未だ曇りのない強い眼差しあってこそ。

それだけにとどまらず、FacebookをはじめとするSNS時代での人気の尺度は、今やいいね!の数。誰もが有名になれる時代の、真のスターやヒーローの存在を問う問題作と言って良いでしょう。

この作品で復活を果たしたマイケル・キートンのこれからに注目する楽しみもあります。そしてこのところハリウッドでの活躍華々しいメキシコ出身の監督たちですが、その中でも別格のイニャリトゥ監督に改めて感服。長編初監督作品『アモーレス・ペロス』(00)でカンヌ国際映画祭で高い評価を得るやいなや、一挙にハリウッド入り、以後常に社会の持つ問題点を批判してきた、いわば純文学系社会派。その衰えを見せないイニャリトゥ監督のエネルギーを、この作品でも甘受したいものです。

リーガンは果たして回生できるのか?
リーガンは果たして回生できるのか?
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

2015年4月10日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか 全国ロードショー
出演:マイケル・キートン、ザック・ガリフィナーキス、エドワード・ノートン、アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・G・イニャリトゥ、ニコラス・ヒアコボーネ、アレクサンダー・ディネラリス・Jr、アルマンド・ボー
撮影:エマニュエル・ルベツキ
ドラム・スコア:アントニオ・サンチェス
原題:Birdman or (The Unexpected Virtue of Ignorance)
2014年/アメリカ/英語/カラー/ヴィスタサイズ/120分/
日本語字幕:稲田 嵯裕里
配給:20世紀フォックス映画
PG12
© 2014 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved. 
第87回アカデミー賞® 作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞、第72回 ゴールデン・グローブ賞 主演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)、脚本賞、ゴッサム賞 作品賞、主演男優賞、英国アカデミー賞 撮影賞 ほか多数受賞