映画『タイピスト!』R・ロワンサル監督&D・フランソワ インタビュー 本当にあったことを題材に
極上のファンタジーを。

(2013.08.09)

1950年代を舞台にしたポップでキュートなスポ根風味のロマンチック映画『タイピスト!』。これまでジェーン・バーキンのPVなどを手がけ、本作で長編映画デビューを果たした期待の新鋭レジス・ロワンサル監督が、デボラ・フランソワと、ロマン・デュリスを主演に迎え、ファッションから音楽、小道具など細部にいたるまでこだわり抜いて完成させた至極のエンターテインメントムービーです。『フランス映画祭2013』で来日したレジス・ロワンサル監督と、デボラさんにインタビュー。

これまで存在しなかった映画を作って、
まず自分自身が驚きたい。

ーまずはこの映画の構想と製作の経緯を教えてください。

レジス・ロワンサル監督:ある日曜日の夜、テレビのドキュメンタリー番組でタイピスト競技会の様子をたまたま目にして……(と、ここでデボラさんから「監督はいつも寝る時間を惜しんでテレビをみているのよ」と補足説明が)……「すごい、これは本当に映画になる!こんな映画、いままで存在しなかった」と大興奮して、「これならスポーツにまつわるロマンチック・コメディが撮れるんじゃないか」と思ったのが、この映画が生まれたきっかけなんです。これまで存在しなかった映画を作って、まず自分自身が驚きたい、といった気持ちがわたしには常にあるんです。

ー日本人の私達にしてみれば、かつて一世風靡した大映TVドラマシリーズ『スチュワーデス物語』や、スポーツを通して主人公が成長していくアニメ『エースをねらえ!』などを彷彿とさせながら、おしゃれで可愛いセットや音楽、まさに驚きの作品でした。ところで監督がローズ・パンフィル役にデボラ・フランソワさんを起用した理由は?


『タイピスト!』はOLに憧れる田舎娘ローズ(デボラ・フランソワ)が、タイピングの腕ひとつで世界一にのぼりつめていく物語。ファッションから音楽、小道具など細部にいたるまでこだわり抜いて完成させた至極のエンターテインメント作品になっている。

R・ロワンサル監督:デボラは本当に稀に見る素晴らしい感受性を持った女優だと思います。その感受性はとてもヨーロピアンなものなんですが、それと同時にアメリカの映画女優のリズムや音楽性といったものが身体に備わっているんです。私自身は文化をミクスチャーするのがとても好きなので、デボラは本当にこの作品にピッタリの女優でした。


『フランス映画祭 2013』で観客賞に輝いた『タイピスト!』レジス・ロワンサル監督と主演のデボラ・フランソワ。

ールイを演じたロマン・デュリスさんの起用のポイントは? ローズを世界一のタイピストに育てるコーチ役ともいうべき重要な役柄です。

R・ロワンサル監督:わたしが監督する映画には、自分と共犯関係を感じられる登場人物が必要になってくるんです。ロマン・デュリスなら同年代ということもあり、気が合うんじゃないかと思ったんです。ロマンは肉体がとても雄弁なんです。声だけでなく、肉体で語る、とても魅力的な人だなと思いました。もちろん俳優としても素晴らしいし、感情のパレットがとても豊か。そして仕事にとても熱心で脚本の段階から参加してくれました。

ーデボラさんはロマン・デュリスさんと共演していかがでした?

デボラ:彼は全力で取り組む方で、脚本の読み合わせから一緒にやりました。本当に共演できて素晴らしい経験になりました。ベルギーでタイピングのコーチに特訓を受けている際に、ロマンが訪ねてきて、「これより俺は厳しくやるぞ!」と張り切っていました(笑)。


ルイ(ロマン・デュリス)が経営する会社の秘書を目指して面接を受けるローズ。両手指1本のタイピングでルイを驚かせる。秘書としての才能は?だが、タイプの才能に感心したルイは、世界制覇を目指そうとローズを説得する。

念入りなリサーチ、
特訓のたまもの。

ー監督はこの作品を撮影するにあたり、入念にリサーチされたそうですね。

R・ロワンサル監督:リサーチには大体4年間くらいかけました。当時の様子を知る人物や資料を一生懸命探し、遂に何人かの方から実際のエピソードを伺うことができて、やっと映画が動き出しました。

ーデボラさんは、撮影中の特訓はもとより、オーディションの前の段階からタイプライターの練習をしていたとか。

デボラ:実は、「こんなに若いのにタイプライターが出来て変な子」って監督を驚かせたくて、オーディションの前から練習したんです。


タイピングの大会に出場するローズ。手に汗握る臨場感!

ーもともとタイプライターはお持ちだったんですか?

デボラ:父に頼んだんです。父が警官なので、職場から警察庁で使っていた最後のタイプライターを借りてきてもらって、それで練習しました(笑)

ーパソコンのキーボードとタイプライターでは感触が違いますか?

デボラ:全然違います。映画にもそういったシーンが出てくるんですが、正しい順番で打たないと、ぐちゃぐちゃと絡んでしまうんです。


タイピングの上達のためならなんのその。ルイの友人 マリー・テイラー(ベレニス・べジョ)からピアノの手ほどきを受けるローズ。

ー『タイピスト!』にはロワンサル監督が影響を受けたというアルフレッド・ヒッチコックの『めまい』(’58)やダグラス・サーク作品を想起させるシーンなどが織り込まれています。さらに主人公のローズは『麗しのサブリナ』(’54)や『パリの恋人』(’57)のオードリー・ヘプバーンやマリリン・モンローをモデルにしているのが、ローズの部屋に貼られたピンナップからも伝わってきます。初監督する際には50年代をフィーチャーしたいと考えていらしたんでしょうか。

R・ロワンサル監督:わたしはとても好奇心が強くて、映画や本からいろんなアイデアの源を吸収しているんです。実際、さまざまな映画、もちろん50年代のアメリカやフランスの女優にも影響を受けています。ストーリーが向こうから自分のほうにやってくるような作りがとても好きなんです。


ルイに出会う前は、田舎から出てきたばかりといった風だったが?


タイピングで世界を目指すようになるとみるみる洗練されていく。

ーその一方で、『ロッキー』(’76)や『ベストキッド』(’84)の影響も垣間見られますよね? 監督は、エンターテイメントの要素が強い作品もお好きなのでしょうか?

(と、ここでデボラさんが笑い出し、「ジャーン、ジャ、ジャ、ジャーン」と、歌いながら、シャドウボクシングを披露。)

R・ロワンサル監督:小さな頃の思い出ですよ。映画好きの父親と50年代のリバイバル映画を観たり、10代のころは『ロッキー』や『ベストキッド』を観に行ったりもしていました。こういった作品には、娯楽的な要素だけでなく、それを超えたとても興味深い題材が含まれています。わたしが好きなのは、ちょうどその作家主義と娯楽作品の境界線のような作品を作ることなんです。


世界一のタイピングのために?ジョギングで身体を鍛える。

本当にあったことを題材にして
ファンタジーを膨らませる。

ーローズがカラフルな教則本でタイプの練習をするシーンがとても印象的だったのですが、映画に登場する教則本は当時実際に使われていたものですか?

R・ロワンサル監督:えぇ。実際に世界各国で使われていたものですよ。

ーでは「Populaire(ポピュレール)」という名のピンクのタイプライターも?

デボラ:あれは、私のために作ってもらった特注なんです(笑)


全仏大会1位となったローズは、数々の女性誌の表紙を飾るようになる。

R・ロワンサル監督:やっぱり映画のいいところって、そういうところですよね。本当に実在しているものに自分たちの想像力を付け加えていく。そういう意味で、この『タイピスト!』という映画は、本当にあったことを題材にしてファンタジーを膨らませた映画になっていると思うんです。デボラがローズ・パンフィルを本当に素晴らしく演じてくれたお陰で、観客にローズという人が本当に実在したんじゃないかと思ってもらえるような作品を目指すことができました。

ールイはタイピングの両手打ちができるようにとピアノ、ジョギングとあらゆる方面からローズを鍛えあげていきます。またタイプの練習の教材として『ボヴァリー夫人』をローズに渡しますが、ローズはタイピングだけでなく頑張って読もうとする。このシーンには、どこかローズの意地のようなものが感じられました。

デボラ:(笑いながら)そのとおりです! おそらくルイは悪気もなく、どうせ彼女は中身に興味をもたないだろうと判断して「読まなくていいよ」と言ったと思うのですが、ローズはまるで馬鹿にされたように感じて、「ルイを見返してやろう!」というつもりで読んでいったわけなんです。その結果、ローズはただ単にそれらの本からタイピングの速さを身に付けただけでなく、それぞれの本に描かれた人生の断片を通じて、彼女自身も自分なりに人生を学んでいった、というところまで、あのシーンでは表現されているんです。


ローズ・パンフィルの活躍を、ぜひ劇場で確かめてみて。ちなみに「ローズ」というのはロワンサル監督のおばあちゃんの名前です。

ー最後に『タイピスト!』の撮影を通じて感じたことをおうかがいしたいです。

R・ロワンサル監督:デボラは非常に繊細な感受性を持っていて、単に技術に頼らず心の底から感情が出せるというのが素晴らしかったですね。デボラもロマンもとても小さいころから演技をしているということもあって、子どもの心をずっと持ち続けている二人だと思うんです。だから一緒に演技をしていてもとてもうまくいったんじゃないかな。あと、デボラにはなんというかちょっと宇宙人みたいなところがあるんですよ(笑)

デボラ:『タイピスト!』という作品で私の新しい一面を引き出していただいて、観客に見てもらえるチャンスを与えて下さった監督には、いくら感謝してもし尽くせないくらいです。脚本を読んで、このローズ役を自分で書いてでも出たいと思うくらいの作品だったので、ほんとにこの役を演じることが出来て嬉しく思います。

***

フランス映画祭でいち早く上映され、見事観客賞を受賞した映画『タイピスト!』。レジス・ロワンサル監督の描く世界で新たな魅力が全開となったデボラさん演じるローズ・パンフィルの活躍を、ぜひ劇場で確かめてみてください。

●レジス・ロワンサル プロフィール
Régis Roinsard 映画監督、脚本家 1972年フランス ルビエ生まれ。高等映画学校ESECで映画を学び、98年、短編デビュー。ジャン=ルイ・ムラー、カリなどのMTVに携わり、’04年ジェーン・バーキンのアルバムドキュメンタリー『Rendez-vous avec Jane 』を監督。タヒチ生まれの歌手マレーヴァ・ギャランテールの『ukuyéyé』一連のMTVを60年代風のポップな画面に仕上げ、知られるように。『タイピスト!』が初の長編となる。今、フランス映画界で最も注目される監督のひとり。
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●デボラ・フランソワ プロフィール
Déborah François 女優 1987年ベルギー リエージュ生まれ。デビュー作で、カンヌ映画祭パルム・ドールを獲得したダルデンヌ兄弟監督『ある子供』(’05)のソニア役で注目される。’09年レミ・ブザンソン監督『Le premier jour du reste de ta vie』でセザール賞有望若手女優賞受賞。‘阪神淡路大震災後の神戸を舞台にしたオドレイ・フーシェ監督『メモリーズ・コーナー』(’11)では阿部寛、西島秀俊と共演を果たしている。

『タイピスト!』
2013年8月17日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国順次公開

監督:レジス・ロワンサル
出演:ロマン・デュリス、デボラ・フランソワ、ベレニス・ベジョ
原題:Populaire
配給:ギャガ
2012年/フランス/111分/シネマスコープ/5.1ch
2013年 セザール賞 5部門ノミネート
© 2012 – copyright : Les Productions du Trésor – France 3 Cinéma – France 2 Cinéma – Mars Films – Wild Bunch – Panache Productions – La Cie Cinématographique – RTBF (Télévision belge)© Photos – Jaïr Sfez