ミランダ・ジュライ最新作『ザ・フューチャー』 「始まり」の終わりに戸惑う二人の、
愛と時間を巡る物語。

(2013.01.20)

「テレパシーを使って水道の蛇口をひねる」
「(特殊能力で)時を止められる」というソフィーとジェイソン。

2013年1月19日より 『シアター・イメージフォーラム』を皮切りに全国順次公開となる映画『ザ・フューチャー』。監督・脚本・主演を務めるのは、長編デビュー作『君とボクの虹色の世界』(’05)でサンダンス映画祭審査員特別賞を受賞したほか、カンヌ国際映画祭でパルムドール(新人監督賞)を含む 4部門に輝き一躍脚光を浴びたミランダ・ジュライです。彼女の稀有な才能が発揮される分野は多岐にわたり、コンテンポラリー・アーティストとしてインスタレーション作品を手掛けるほか、作家としても短編小説『いちばんここに似合う人』でフランク・オコナー国際短編賞を受賞し、世界20カ国で出版されるという、まさに八面六臂の活躍を見せるミランダ。プライベートでは『人生はビギナーズ』の監督でもあるクリエイターのマイク・ミルズをパートナーにもち、昨年一児の母となるなど、公私共に充実のときを迎えている今大注目のアーティストです。

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前作の『君とボクの虹色の世界』では、高齢者タクシーの運転手をしながらアーティストを夢見る女性クリスティーンを自ら演じたミランダですが、本作ではダンスの先生として生計を立てる35歳のソフィーを演じています。インターネットの電話サポート業務を請け負うジェイソンとLAの小さなアパートで一緒に暮らして4年目。

「テレパシーを使って水道の蛇口をひねる」と話すソフィーと、「(特殊能力で)時を止められる」というジェイソン。そんなやりとりを日常的に繰り広げるどこか浮世離れしたふたりは、ある日、大怪我を負った迷い猫を動物シェルターに運び、パウパウ(お手々ちゃん)と名づけ、「迎えにくるよ」と約束します。

当初余命6か月と診断され、最期を看取ってあげようと思っていたパウパウが、長ければあと5年は生きられると知り、突如自分たちに降りかかろうとしている責任の重さに思わずたじろぐふたり。


ダンスの先生として生計を立てるソフィー(ミランダ・ジュライ)はインターネットの電話サポート業務を請け負うジェイソン(ハミッシュ・リンクレイター)と一緒に暮らしている。ふたりは大怪我を負った迷い猫を助け、動物シェルターに引取りに行くまでに、お互い本当にやりたいことをやろうと決める。©Todd Cole 2011

身につまされる
「こんなはずじゃなかった」話。

「5年後には自分たちは40歳。40はもうほぼ50歳。そしてその後の人生には……微妙な変化しかない」と焦り、自由の喪失と人生の残り時間を意識するようになった彼らは、これが「最後の」猶予期間とばかりに、パウパウを引き取るまでの30日間を利用して、お互い本当にやりたかったことをやってみようと決意するのです。


まずは仕事を辞めて、インターネットを解約。ソフィーは「30日で30のダンスを創る」と周りに宣言し、ジェイソンは成り行きで、環境保護団体のボランティアとして木の訪問販売を開始します。突如ひらめいた奇妙なダンスをYou Tube用に録画しては行き詰まり、窓から身を乗り出して「あぁぁぁ〜」と大声で叫んだかと思えば「心の解放」とはぐらかすソフィーとは対照的に、「注意深く、耳をすませて」日々を過ごしていたジェイソンは、結婚生活60年となる大先輩の忠告をヒントに、まだ自分たちの人生は途中どころか、「始まり」の終わりでしかないことを学んでいきます。




ソフィーとジェイソンに助けられ、傷が癒えた頃に迎えに来るというふたりを待つ猫 パウパウ(お手々ちゃん)。世界について、人生について哲学的に語るパウパウのモノローグは、冒頭はじめ随所で挿入される。©Todd Cole 2011

本作で描かれるのは、自由な存在であり続けるために、刹那的な「今」を重ねてきた人たちが、生き物を育てるという責任を前に、限りある時間と「これから」どのように折り合って生きていくべきかを自問自答する姿です。

「過去15年は私の準備期間」「これから何かすごいことをする」、そう自分に言い聞かせるソフィーのお気に入りのTシャツは、まるでライナスの毛布のよう。


「もっと賢くなって、もっと稼げるようになると思ってた」とジェイソンが話せば、「本当は時代の最先端にいたかったけど、いまでもずっと疎いまま」と応じるソフィー。ふたりによる「こんなはずじゃなかった」話が、とてもリアルで身につまされます。


ソフィーは「30日で30のダンスを創る」と周りに宣言し、You Tube用にダンスを録画しようとするが……。©Todd Cole 2011

Tシャツのダンスシーンに
込められたメッセージ。

何をやっても上手くいかないなら、いっそのこと、自分の存在を全肯定してくれる誰かの庇護のもと、何も成し遂げなくとも許される安心感に身をゆだねていたい。そう考え、ジェイソンと暮らした部屋を出て、新天地をめざすことにしたソフィー。

でも、親しかった友だちはいつのまにか結婚して子どもを身ごもり、人生の大きな節目を次々迎えているというのに、「わたし」を取りまく状況は、なかなか快方に向かっていく様子はない。やっとの思いで手に入れた仕事さえ、大きなおなかを抱えた彼女たちがいうような「誇らしい」ものではないし、たどり着いた新天地にも自分より庇護されるべき存在が他にいる。

そう落ち込むソフィーのもとに、かつて自分を勇気づけてくれた、お気に入りのTシャツが、自ら意志を持って歩いて来ます。

 そして、ソフィーは再び手にしたTシャツに包まり、まるで蛹が蝶に変体を遂げるかのようなダンスを見せるのです。

このシーンに込めた思いを、公開初日に『シアター・イメージフォーラム』で行なわれたスカイプを通じてのQ&Aでミランダに直接尋ねてみたところ、「自意識過剰なソフィーが、外の世界が見えない状況下で踊ることは、自分が何者でもないことを受け入れること。結果として見られてはいるけれど、誰かに「見られている」ことを忘れて踊っているその瞬間こそが、クリエイティビティの出発点だと思う」と解説してくれました。

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儚い少女性と早熟性。その2つを共存させながら、さまざまな形でそれらを創作へと昇華させてきたミランダが、本作では初めて真の大人になることと正面から向き合ったともいえるのかもしれません。

登場するインテリアや小物、身に付けているファッションのみならず、そこに流れる音楽やあふれる光を含めて、すみずみまでミランダのセンスが行き届き、ファンタジックでシュールな設定もスクリーンに違和感なく溶け込んでいます。

1分先に起こりうるソフィーの告白が怖くて、本当に時間を止めてしまったジェイソンに、月が「やれやれいつまでもそうしてるつもりか」と諭すように語りかけ、そうこうしているうちに、肝心のパウパウを引き取る期限さえ過ぎ去ろうとしています。自由であるがゆえの孤独や不安から解放されるため、ペットとして暮らす日を切望するパウパウと、すれ違う彼らふたりの運命は……。もしも、お互いのことを見失ってしまったとしても、合図の音楽が聞こえてきたら、いつかきっとまた巡り合えるはず。そんな切なさと隣り合わせにあるささやかな希望を、哲学猫とお月様がそっと教えてくれる映画です。


ふたりでともにするベッドで夜中、ソフィーの鼓動が早いことに気が付きたジェイソン。どうしたの?とたずねると話すことがあるという。辛い告白を聞きたくないジェイソンは……。©Todd Cole 2011

●◯●監督・脚本を手がけソフィーを演じた●◯●
ミランダ・ジュライ プロフィール

Miranda July 映画にとどまらず、コンテンポラリー・アートや小説など、多方面の創作で活躍中。1974年米国カリフォルニア州バークリー生まれで現在ロサンゼルス在住。映画では、脚本、監督、主演を担当した最初の長編映画『君とボクの虹色の世界』(2005年)で、サンダンス映画祭審査員特別賞、カンヌ国際映画祭でカメラドール(新人監督賞)を含む4部門を受賞し、一気に世界に知られることになった。

コンテンポラリー・アーティストとしては、ビデオ作品、パフォーマンス、ウェブでのプロジェクトがニューヨーク近代美術館、グッゲンハイム美術館、ホイットニー・ビエンナーレで紹介されている。アーティストのハレル・フレッチャーと共同で参加型ウェブサイトLearningtoloveyoumoreを立ち上げ、2007年に同サイトの書籍版(プレステル社)も刊行。作品は現在、サンフランシスコ現代美術館のアーカイブに所蔵されている。2009年のベネチアビエンナーレのために制作したインタラクティブ・スカルプチャー・ガーデン【インタラクティブなオブジェの庭】“Eleven Heavy【11の重たいもの】”は、2010年夏にニューヨークで発表された。作家としては、短篇小説集『いちばんここに似合う人』が、フランク・オコナー国際短篇賞を受賞し、20カ国で出版され、次作の『It Chooses You』が新潮社より邦訳(岸本佐知子訳)発行予定である。私生活では『人生はビギナーズ』(2010年)の監督でマルチ・アーティストのマイク・ミルズとカップルで、2012年に一児を出産したばかり。多方面で発揮される才能がどこまで伸びてゆくか楽しみな女性である。


映画にとどまらず、コンテンポラリー・アートや小説など、多方面の創作で活躍中のミランダ・ジュライ©Todd Cole 2011

『ザ・フューチャー』

2013年1月19日(土) シアター・イメージフォーラムにてロードショー、以下全国順次公開
出演:ハミッシュ・リンクレイター、ミランダ・ジュライ、デヴィッド・ウォーショフスキー、ジョー・パターリック
監督、脚本:ミランダ・ジュライ
製作:ジーナ・ウォン、ローマン・ポール、ジェルハルド・マイナー
製作総指揮:スー・ブルース・スミス
共同製作:クリス・スティンソン
撮影:ニコライ・フォン・グリーニヴェニッツ/エリオット・ホステッター
編集:アンドリュー・バード
音楽:ジョン・ブライオン
衣装:クリスティ・ウィッテンボーン
メークアップ:サビーネ・シューマン
音楽スーパーバイザー:マーガレット・イェン
日本版字幕 西山敦子
2011年/ドイツ=アメリカ/カラー/1:1,85/35ミリ・デジタル/91分
2011年サンダンス映画祭/ベルリン国際映画祭正式出品

詳しくは Web Magazin 100%LiFE へ → Array